電気を流すと色が変わる新しい材料

アジサイの花の色は青だったり赤だったりしますが、生えている土の酸性度によって色が変わることをご存知でしょうか?外部刺激によって色が変わる現象は、一般に「クロミズム」と呼ばれます(この言葉自体は、クロムという金属が、いろいろな色に変わることに由来しているようです)。最初に紹介したアジサイの色は、酸性度(pH)によって色が変わるアントシアニンという物質のせいです。外部刺激には、酸やアルカリ以外にも、熱、光、電気などが挙げられ、これまでに多くの研究者が「クロミズム」に魅了されてきました。本稿では、電気を流すと色が変わる新しい物質を紹介します。

樋口 昌芳

国立研究開発法人 物質・材料研究機構
機能性材料研究拠点 電子機能高分子グループ
グループリーダー

樋口ひぐち 昌芳まさよし

1.電気を流すと色が変わる物質

電気を流すと色が変わるという言葉を聞いて、皆さんはどんなものを思い浮かべるでしょうか?テレビやスマホの画面が、それにあたると思われるかもしれません。しかし、それらに使われている液晶画面には、電気で色が変わる物質が使われているわけではありません。カラーフィルターといって、3つの色が細かく塗り分けられたフィルムが貼られていて、バックライトを用いて、液晶画面の裏側から表示したい色を明るく照らすことで、色を表現しているのです。

現在、電気で色がかわる物質は、車の防眩ミラーや飛行機の窓として実用化されています。防眩ミラーとは、夜、バックミラーを見たときに、後ろの車のライトがまぶしく感じないように、自動的に暗くなるミラーのことです。昔は一部の高級車にしか搭載されていませんでしたが、最近はかなり防眩ミラーが搭載された車が増えてきました。ボーイング787の窓にも電気で色が変わる物質が使われていて、ボタン一つで窓を暗くすることができます。また、乗務員が全ての窓を一斉に暗くすることもできます。

電気で色が変わる物質は、40年以上前から広く研究されてきました。主なものとしては、酸化タングステンや酸化モリブデン、プルシアンブルーなどの無機材料、ビオロゲンや、ポリアニリンなどの導電性ポリマーなどの有機材料が挙げられます。それぞれ特徴があり、一般に無機材料は耐久性に優れていますが、色が変わるのに10秒以上かかったり、カラーバリエーションに乏しいといった欠点を有します。一方、有機材料はいろいろな色をもつものがあるのですが、耐久性に乏しいという欠点があります。それらの理由から、電気で色が変わる材料は、長い間研究が行われてきたにもかかわらず、実用化例が限られています。

しかし、電気で色が変わる物質には共通して一つの長所があります。それは、電気をかけてある色になったら、その状態が続く限り、もう電気をかけ続ける必要がないということです。例えば、皆さんのご家庭にあるテレビのコンセントを抜いてください。テレビを見ることはできるでしょうか?当たり前ですが、テレビは映りません。それでは、コンセント差して、テレビをつけた状態でコンセントをいきなり抜いたらどうなるでしょうか?危険ですので実際にはやらないですが、画面は突然真っ暗になると思います。つまり、液晶ディスプレイは、常に電気をかけ続けないと見れないのです。

つまり、電気を常にかけ続ける必要のない特徴を生かせれば、電気で色が変わる物質は、超低消費電力の次世代表示デバイスとして、窓、駅などの表示板、商品の値札など、我々の生活の様々な場面で利用できる可能性があります。

2.メタロ超分子ポリマー

我々は、メタロ超分子ポリマーという新しい物質を開発している途中で、この物質が電気を流すと色が変わることを発見しました。ポリマーというのは「高分子」とも呼ばれますが、分子がたくさんつながった巨大分子のことで、ビニール袋やペットボトル、ゴムなど、私たちの身の回りには多くの合成されたポリマーが使われています。植物を形作る繊維や、動物を作り上げているタンパク質などは天然のポリマーです。1953年にノーベル賞を受賞したドイツ人のシュタウディンガーは、ポリマーの存在を最初に提唱しました。また、2000年にノーベル賞を受賞した白川先生は、電気の流れるポリマーを発見しました。

さて、メタロ超分子ポリマーですが、これはこれまでのポリマーとはだいぶ違います。一番の大きな違いは、ポリマーの中に金属イオンが大量に入っていることです。金属イオンの種類としては、これまでに我々は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ユウロピウムなどが導入されたポリマー(メタロ超分子ポリマー)を合成しています。このポリマー作り方は、とても簡単です。金属イオンと結合する箇所を2つもつ有機物(有機配位子と呼ばれます)と、金属イオンを、溶液中で混ぜながら加熱するだけです。この結果、金属イオンと有機配位子が交互につながった長いポリマーが得られます(図1)。

図1 金属イオンと有機配位子からメタロ超分子ポリマーができる模式図

このポリマーは金属イオンを含んでいるので、今までのポリマーにはない電子的な機能が期待されます。金属イオンとして鉄イオンを選択し、有機配位子としてビス(ターピリジル)ベンゼンを用いてメタロ超分子ポリマーを合成したところ、青色のポリマーが得られました。原料の鉄イオンと有機配位子は、どちらもほぼ白色なのですが、ポリマーになると青色になりました。これは、両者が結合したことで鉄イオンから有機配位子への電荷移動吸収が可視領域で発生したため、ポリマーが色を持ったのです。

図2 鉄を含むメタロ超分子ポリマーに電気をかけた時の色変化

鉄などがさびることを酸化すると言いますが、電気化学ではこの言葉の定義が拡張されていて、物質から電子を奪うことを「酸化する」、逆に物質に電子を与えることを「還元する」と言います。電池を用いて2つの電極間に電位をかけると、物質は電極に電子を奪われたり、電極から電子を与えられたりしますが、それらを「酸化される」「還元される」と表現します。先ほどの青色のポリマーが何ボルトで酸化されたり、還元されたるするかを調べるために、ポリマーを電極上に製膜し、電解質溶液に浸して、対極と参照電極を加え、ポリマーが製膜された電極と対極の間に電位をかけました。すると、参照電極に対して1ボルトの電位(1.0V vs. Ag/Ag+)で、ポリマーの青色が無色になることを発見しました。この無色のポリマーに参照電極に対して0ボルトの電位(0.0V vs. Ag/Ag+)をかけるとポリマーは再び青色に戻りました(図2)。つまり、このポリマーに電気を流すと色が変わったのです。

3.長所

メタロ超分子ポリマーにおいて色が変わる仕組みは、次のように考えています。1ボルトの電位をかけると、ポリマー中の鉄イオンが酸化されて(電子が奪われて)、鉄の酸化数が+2から+3になります。ポリマーの青色は、鉄イオンから有機配位子への電荷(電子)の移動によるものだったのですが、電気によって鉄から電子が奪われると、有機配位子へ移動する電子が鉄からなくなったために、もはや電荷移動吸収が起こらなくなり、色が消えたと考えられます。その後、鉄を還元すると、鉄は電極から電子をもらって、再び電荷移動吸収が発現します。

ポリマーの色は金属から有機配位子への電荷移動吸収によるものですが、金属イオンと有機配位子の間のエネルギー差は用いる金属や有機配位子の違いによって大きく変わります。そのため、金属イオンの種類を変えることで、赤、黄、緑色などの様々な色のメタロ超分子ポリマーが得られました(図3)。また、色変化は金属イオンの酸化還元で起こるのですが、金属の酸化還元は有機物質の酸化還元に比べて非常に安定なので、本ポリマーの色変化における繰り返し駆動特性は非常に高く、10万回の色変化後も安定に色変化しました。つまり、本物質は、従来の無機物質の長所(高い繰り返し安定性)と、従来の有機物質の長所(豊富なカラーバリエーション)を兼ね備えていると言えます。

図3 メタロ超分子ポリマーの豊富なカラーバリエーション

INTRO

NIMS機能性材料研究拠点

物質・材料研究機構(NIMS)に設置された研究拠点の一つです。電子機器や光学機器に用いられる電子材料や光学材料、溶液中のイオンや分子の分離・選別などの機能を持つ膜材料、生体内での細胞との相互作用を制御した生体材料、超伝導を含む新しい量子的な機能を発揮する物質の探索、あるいは、そうした物質や材料を合成・製造するためのプロセス技術等に関する研究開発が総合的に推進されています。

http://www.nims.go.jp/research/functional-materials/

電子機能高分子グループ

近年の有機合成手法とナノテクノロジーの著しい進歩により、新物質の開発及びその構造解析が以前より容易に出来るようになってきました。その結果、材料合成における学際的アプローチが可能となり、有機/金属ハイブリッドポリマーなどの融合マテリアルが開発されています。 私達は、共有結合より弱い配位結合や水素結合などの結合を利用して、メタロ超分子ポリマーや特異構造ポリマーなど新規な有機高分子、無機高分子、ハイブリッド型高分子材料の開発を行っています。

http://www.nims.go.jp/fmg/index.html

■ナビゲーター
国立研究開発法人 物資・材料研究機構
機能性材料研究拠点
拠点長
大橋おおはし 直樹なおき

4.デバイス化と今後の展望

現在、我々はメタロ超分子ポリマーの優れた特性(高い繰り返し駆動安定性と豊富なカラーバリエーション)を生かした用途への実用化を、企業との共同研究を通じて目指しています。また、基礎研究の更なる推進のために、科学技術振興機構(JST)のCREST研究を行っています(研究課題:超高速・超低電力・超大面積エレクトロクロミズム)。

メタロ超分子ポリマーのもう一つの特徴として、製膜したポリマー膜の高い柔軟性が挙げられます。一般に無機物質は結晶性のため、蒸着などで作製した膜に柔軟性はありません。その点、メタロ超分子ポリマーは、無機物質と同様の耐久性がありながら、製膜に塗布法などが使用でき、更に得られた膜に柔軟性があります。これは、ポリマーが結晶性をもたないアモルファスであることに起因しています。

昨年、我々は、メタロ超分子ポリマーを用いて、「ハサミで好きな形に切れるディスプレイシート」を開発しました(2016年7月13日プレスリリース)(図4)。フレキシブルなプラスチック基板を用いることで、柔軟性のあるデバイスを作製することに成功しました。メタロ超分子ポリマーは水や酸素に対して安定なので、デバイスをハサミで切っても、電気を流すと表示を変えることができました。この成果は、本材料が窓や駅の表示といった「固い」デバイスだけでなく、傘やレインコートなど「柔らかい」ものの色を変えることができる可能性を示しています。現在、「色の着替えを楽しむ新しいライフスタイル」の実現を目指して、研究を推進中です。

図4 ハサミで好きな形に切ることができるディスプレイシート

参考文献

1.プレスリリース
「好きな形に切れるディスプレイの開発に成功」
http://www.nims.go.jp/news/press/2016/07/201607130.html
2.オープンアクセス論文(どなたでもダウンロードして読むことができます)
“Geometrically Isomeric Pt(II)/Fe(II)-Based Heterometallo-Supramolecular Polymers with Organometallic Ligands for Electrochromism and Electrochemical Switching of Raman Scattering”, C. Chakraborty, R. K. Pandey, U. Rana, M. Kanao, S. Moriyama, M. Higuchi, J. Mater. Chem. C, 4, 9428-9437 (2016).
http://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2016/TC/C6TC02929A#!divAbstract

ご照会先

HIGUCHI.Masayoshi@nims.go.jp

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