シリカを原料とするケイ素化学基幹原料の効率的合成法に関する研究

シリコーン(オイルやゴム)やシランカップリング剤(表面改質剤)などのケイ素を含む化学品は工業的な製造プロセスにおいて、膨大な電力を必要とする「金属ケイ素の製造」という工程を経る必要があるため、エネルギー多消費・高コストとなる事が課題となっています。今般、筆者たちは、砂、灰、産業副産物などの安価で豊富にあるさまざまなケイ素源を出発原料として、ケイ素化学産業の基幹原料の一つであるテトラアルコキシシランを短時間に高収率で合成できる技術を開発しました。この技術では、分離・回収・再利用が容易な固体状の無機脱水剤であるモレキュラーシーブを使うことが特徴であり、中間原料として金属ケイ素を経由する必要のないシリカの直接変換であるため、製造プロセスの省エネルギー化・低コスト化が期待できます。

深谷 訓久

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
触媒化学融合研究センター
主任研究員

深谷ふかや 訓久のりひさ

1.はじめに

ケイ素は、地球の表層を構成する成分のうち、酸素に次いで豊富に存在する元素であり、自然界では、岩石や砂の中の主成分としてシリカ(SiO2)の状態で存在している。ケイ素を含む材料は、我々の身の回りで非常に多く、様々な形態で利用されている1)。シリコーン、シランカップリング剤に代表される有機ケイ素化学品は、耐熱性、耐候性、耐薬品性、絶縁性などの観点で優れた物性を有し、自動車、航空・宇宙、建設、エレクトロニクス、医療や化粧品など非常に幅広い産業分野で用いられる機能材料である。また、テトラアルコキシシランと呼ばれる化合物(例えばテトラエトキシシランは、TEOS/テオスという略称で良く知られている)は、主に無機ケイ素材料の原料として幅広く利用されていて、機能性セラミックス、ガラス、合成石英などの光学材料、電子デバイス用の保護膜などを作る際に欠かせない基幹物質となっている。現在のケイ素化学産業における製品群の工業的製造プロセスの概要を図1に示す。様々な最終製品の材料に用いられる含ケイ素化学品は、いずれも製造工程の第一段階において、出発原料である天然のケイ石を高温で炭素と反応させ、金属ケイ素に還元する必要がある。これは大量の電気エネルギーを消費し、同時に二酸化炭素(CO2)も大量に排出する工程である。このことが、ケイ素という元素自体は地球上に豊富に存在する資源であるにもかかわらず、ケイ素を含む化学材料が比較的高価格な製品となっていることの主要因である。また電力コストの高い日本国内で金属ケイ素を生産することは、経済合理性の観点から難しく、我が国のケイ素化学産業は、現行プロセスでは必須の原料である金属ケイ素のほぼ全量を、諸外国からの輸入に依存している2)。したがって、国内にも豊富に存在し、かつ安価なシリカ原料から含ケイ素化学品を直接合成する技術の開発が望まれているが、その技術的難易度の高さから、半世紀以上にわたって、金属ケイ素を経由したプロセスで工業的な生産が行われている3)

図1 様々なケイ素化学品の工業的な製造プロセス

筆者は、金属ケイ素を経由しない新たな有機ケイ素化学品製造方法の開発を目指して、シリカ(SiO2)から直接テトラアルコキシシランを合成する技術の開発に取り組んでいる。本稿では、その研究動向について紹介する。

2.シリカからテトラアルコキシシランを合成する技術の研究動向

シリカを原料としアルコールとの反応によってテトラアルコキシシランを合成する理想的な反応式は式1の様に表すことができる。しかし実際には、シリカは非常に安定な酸化物であるため、生成したテトラアルコキシシランが速やかに水と反応してシリカとアルコールに戻る逆方向の反応の方が圧倒的に進行しやすく、単純にこの反応式通りにテトラアルコキシシランを収率良く合成することは困難である。

シリカから直接テトラアルコキシシランを得る方法として、塩基触媒を用いたシリカと炭酸ジメチル(DMC)との反応によるテトラメトキシシラン(TMOS)の合成が小野らやLewisらによって報告されている(式2)4)。この方法は、金属ケイ素を原料としないため、エネルギー効率では有利である。しかし、比較的高価な有機化合物であるDMCを、シリカに対して少なくとも2倍量投入する必要がある量論反応であるため、テトラアルコキシシランの工業的製法としては経済性に課題があると考えられる。

筆者らは、これまでに有機脱水剤としてアセトンジメチルアセタール(Acetal)と二酸化炭素を用いることによって、シリカとメタノールから効率的にTMOSを合成する技術を開発してきた(図2)5)。この反応では二酸化炭素が触媒的な役割を果たし、系中に逐次的にDMCを発生させながらTMOSを合成することが可能となった。

図2 二酸化炭素と有機脱水剤(Actal)を用いるシリカからのTMOS合成

3.砂や灰などから高効率にテトラアルコキシシランを合成する新技術

最近筆者らは反応プロセスにさらなる改良を加え、よりシンプルかつ高効率にシリカとアルコールから直接テトラアルコキシシランを合成できるプロセスの開発に成功した6)。具体的には、反応システムの中にモレキュラーシーブと呼ばれる均一なサイズの細孔を持つ固体状の無機脱水剤を組み込んだ。モレキュラーシーブは、細孔内に水分子を吸着することができるため、有機溶剤やガスなどの乾燥に汎用されている材料であり、これが反応中に継続的に副生成物である水を除去することによって、収率良く目的物であるテトラアルコキシシランを合成できる反応システムとなっている。

表1 様々な天然原料からテトラエトキシシランを直接合成した結果

シリカ(SiO2)を含有する出発原料として、「砂(青森県夏泊半島産の珪質頁岩を粉砕して得られたもの)」、「燃焼灰(もみ殻や稲わらを燃焼させた後に残ったもの)」、「産業副産物(合成石英を製造する際に副生するシリカ)」を用いた。これらにエタノール、触媒として水酸化カリウムを加え、モレキュラーシーブ3A(細孔径0.3nm)の存在下で加熱し、3時間反応させた。反応結果を表1に示す。砂からは、含有するシリカ基準で51%の収率でテトラエトキシシラン(TEOS)が生成した。また農業副産物として未活用の資源とも言えるもみ殻や稲わらを燃焼させた後に残った灰は比較的高いシリカ純度を有しており7)、これらを原料として反応を行うと72~78%の高い収率でTEOSを得ることができた。また産業副産物を回収して原料として利用すると、72%の収率でTEOSが得られた。

この反応の中で、触媒として加えた水酸化カリウムは、シリカ(SiO2)の分解すなわちケイ素-酸素結合のネットワークの切断を促進する役割を担っている。無機脱水剤であるモレキュラーシーブは、既に述べたように反応によって生成した水を吸着して反応系から取り除くことで、反応が逆方向に戻ってしまうことを防いでいる。またこのモレキュラーシーブを用いる反応システムは、シリカ原料に含まれる不純物の影響も受けにくいため、砂や灰のように反応性が低く、シリカ純度の高くない天然原料(図3)を用いても、高収率にテトラアルコキシシランを合成することが可能となった。さらに、生成物であるテトラアルコキシシランは、常温では液体の物質であるのに対して、モレキュラーシーブは固体であるため反応後には容易に生成物と分離・回収することができ、加熱や減圧によって再生して何度も繰り返し使用できるため、製造コスト低減にもメリットがあると考えられる。

図3 さまざまなケイ素源とアルコールからテトラアルコキシシランを合成する反応式

今回新たに開発した技術と、以前に筆者らが報告した図2の有機脱水剤と二酸化炭素を用いる技術との反応効率の比較を図4に示す。無機脱水剤を用いる新反応プロセスでは、大幅な反応時間の短縮が実現したことがわかる。

図4 今回開発した技術と従来技術との反応効率の比較

INTRO

触媒固定化設計チームは2013年に産総研の触媒化学研究の強化を目的に設立した触媒化学融合研究センターの中で、化学プロセスにおける廃棄物の更なる低減・エネルギー効率の一層の向上・循環型資源への原材料転換を目指して、その実現のためのキーテクノロジーである触媒の分子・原子レベルでの設計・開発に取り組んでいる。「触媒固定化」とは、金属錯体や酵素などのように反応系中に原料や生成物と一緒に溶け込んで働く触媒(均一系触媒と呼ばれる)を活性点の構造を維持したまま、シリカゲルや有機ポリマーなどに結合させて反応系中に不溶な材料(不均一系触媒)とし、反応終了後の生成物からの触媒分離・回収・再利用を容易にする為の技術である。この触媒固定化技術を通じて、様々な化学品を高効率、高品質かつ低環境負荷で製造するための化学プロセス開発や、触媒の低コスト化、省資源のための貴金属代替・省量化技術の開発に取り組んでいる。また、本稿の筆者は、枯渇する恐れの無い循環型資源である二酸化炭素(CO2)、あるいはシリカ(SiO2)を原料として用いて、有用化学品を高効率に合成する技術開発を行っている。固有のエネルギーや天然資源に乏しく、その大部分を諸外国からの輸入に頼っている日本においては、豊富に存在しかつ安価に入手可能な資源を有効に活用する為の「原料転換」に関連する技術開発の重要性は、今後もますます高まっていくだろう。

■ナビゲーター
つくばサイエンス・アカデミー
コーディネータ
伊ヶ崎 文和

4.まとめと今後の展望

今回は開発した技術では、再生・再利用が可能な無機脱水剤を用いることで、シリカとアルコールからテトラアルコキシシランを直接合成することができる。また砂や灰、産業副産物など豊富に存在するケイ素源に対しても適用可能であることを実証した。この製造方法により、金属ケイ素を経由することなく、シリカをケイ素化学品の原料として直接利用する道を拓くことができた。今後さらなる触媒開発や反応プロセスの検討によって、テトラアルコキシシランからケイ素-水素(Si-H)もしくはケイ素-炭素(Si-C)結合を有するケイ素化合物を合成する技術を創製できれば、ケイ素化学品産業のプロセス全体の革新が可能になるであろう。

謝辞

本研究は、(国研)産業技術総合研究所/触媒化学融合研究センター/触媒固定化設計チーム「崔準哲研究チーム長・崔星集博士・堀越俊雄氏・新田忠弘博士」およびコルコート株式会社「長谷川稔博士、熊井浩氏」と共同で行った。ここに深謝の意を表する。また本研究は、経済産業省未来開拓研究プロジェクト「産業技術研究開発(革新的触媒による化学品製造プロセス技術開発プロジェクト(平成24~平成25年度)および有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発)」と国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」(平成26年度~現在)の一環として行われたものである。

参考文献

1.吉良満夫、玉尾皓平ほか,現代ケイ素化学,化学同人(2013). 2.独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)鉱物資源マテリアルフロー2016(2017). 3.(a)J.I.Kroschwiz and M.Howe-Grant,KirK-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,Wiley-Interscience,4th edn,1997,vol.22,pp.1–154;
(b)D.Seyferth,Organometallics 20, 4978(2001).
4.(a)E.Suzuki,M.Akiyama,Y.Ono,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.136(1992).
(b)Y.Ono,M.Akiyama,E.Suzuki,Chem.Mater.5,442(1993);
(c)L.N.Lewis,F.J.Schattenmann,T.M.Jordan,J.C.Carnahan,W.P.Flanagan,R.J.Wroczynski,
J.P.Lemmon,J.M.Anostario,M.A.Othon,Inorg.Chem.41,2608(2002).
5.N.Fukaya,S.J.Choi,T.Horikoshi,H.Kumai,M.Hasegawa,H.Yasuda,K.Sato,J.-C.Choi,Chem.Lett.45,828(2016). 6.N.Fukaya,S.J.Choi,T.Horikoshi,S.Kataoka,A.Endo,H.Kumai,M.Hasegawa,K.Sato,J.-C.Choi,New.J.Chem.41,2224-2226(2017). 7.(a)F.C.Lanning,J.Agric.Food Chem.11,435(1963).
(b)D.S.Chaudhary,M.C.Jollands,J.Appl.Polym.Sci.93,1(2004).
(c)X.Liu,X.Chen,L.Yang,H.Chen,Y.Tian,Z.Wang,Res.Chem.Intermed.42,893(2016).

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