中小企業のIT及びIoT導入支援の取り組み

短納期や多品種生産への対応、品質保証責任、トレーサビリティの確保など、製造業に対する社会的要求が高まりつつある中、業務革新を推進し、競争力の維持向上を図るための手段として、IT化が有効であることは広く認識されています。さらに、IoTの導入による現場データの活用は、単なる効率化に止まらない大きな効果をもたらすものとして期待されています。一方、特に中小企業では、これらのシステム開発や導入、運用のための負担が非常に大きい上に、実際の業務に合わせて使いこなすための人材を確保することが難しいというケースが多く見られます。

このような問題を解決するため、著者らのグループでは、高度な専門知識を持たずとも製造業の技術者が自らシステムを構築・運用する「エンドユーザー開発」の実現という観点に基づき、そのためのツールの研究開発ならびに導入支援に取り組んできました。本稿では、これらの活動について紹介します。

澤田 浩之

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
エレクトロニクス・製造領域
製造技術研究部門
総括研究主幹

澤田さわだ 浩之ひろゆき

1.はじめに

わが国の製造業を取り巻く環境は厳しさを増しており、企業には、短納期や多品種生産への対応、品質保証責任、トレーサビリティの確保など、より一層の高度な要求に応えることが求められている。IT(情報技術)の導入による業務のシステム化と文書の電子化、さらにIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の導入によるスマート製造の実現は、そのための有効な手段と考えられている。スマート製造とは、センサー類を介して取得したデータにより現実世界をサイバー空間に取り込み、シミュレーションやデータ解析等を活用することでものづくりの効率や品質を向上させるものであり、ドイツが提唱するインダストリー4.0はその代表的なものである。しかしながら、特に中小企業では、ITあるいはIoTシステムの開発や導入、運用のための負担が企業規模に対して非常に大きい上に、実際の業務に合わせて使いこなすための人材を確保することが難しいというケースが多く見られる。

高度な専門知識を持たずともシステムを構築・運用できるツールを開発して広く普及し、製造業の技術者が自ら必要なシステムの開発に携わるエンドユーザー開発1)を実現することによるITやIoTの導入推進を目的として、産総研ではソフトウェア作成ツール“MZ Platform”2)3)及びIoT拡張キット“スマート製造ツールキット”3)の開発と普及を進めている。本稿では、これらの取り組みについて紹介する。

2.ソフトウェア作成ツール“MZ Platform”

MZ Platformは、ソースコードを書く必要のないコンポーネント方式のソフトウェア作成ツールである2)3)。従来、ソフトウェアを作成するためには、プログラム言語を習得し、それを使ってソースコードを記述する必要があった。ところが、ITの専門家ではない製造業の技術者にとって、プログラム言語の習得とソースコードの記述は大きな負担となる。MZ Platformでは、ソフトウェアの部品(コンポーネント)が予め用意されており、ユーザーはそれらを組み合わせることによって、ソースコードを書くことなくソフトウェアを作成することができる。

MZ Platformによるソフトウェア作成手順を図1に示す。ユーザーはビルダーと呼ばれる画面上で主にマウスを操作してソフトウェアを作成する。メニューから必要なコンポーネントを選択し、処理の流れをコンポーネント同士の接続図として記述する。画面レイアウトの設定は、別画面として表示される画面編集ウィンドウ上で行う。機能の追加や変更は、コンポーネントの追加や削除、接続関係の編集により、容易に行うことができる。ビルダーには、ソフトウェアの実行機能も備わっており、ユーザーは機能や操作性を確認しながら、作業を進められる。

図1 MZ Platformによるソフトウェア作成手順

機能修正の容易さは、継続的なIT化の推進と言う点で、大きな意味を持つ。従来、一度作成したソフトウェアは変更が困難であり、修正には多大な労力を必要とした。そのため、システムの変更が必要となるような業務改善を実施することは困難という状況が生じていた。換言すると、システムの導入によって業務が固定化し、それ以上のIT化を進められないというジレンマに陥るようになっていた。このような問題を解決し、企業現場のIT化を継続的に進められることが、MZ Platformの大きな利点であると言える。

MZ Platformは、企業の実用システムにおいて汎用的に使用するコンポーネントとして、現在、200を超える標準コンポーネントを用意している。その他、Java言語によるプログラミングにより、ユーザー自身が独自のコンポーネントを作成して使用することも可能である。これは高度なIT知識を有したユーザーを想定したものではあるが、そのための説明書や雛形ファイル、サンプルファイルも合わせて提供している。

多くの企業に共通して見られる技術的な課題としては、「情報の一元管理」が挙げられる。企業における事例で開発されたシステムは、工程管理や技術情報管理等様々であるが、本質的には、紙の帳票やエクセルファイル等に散在しているデータを一元的に取扱うことによってデータ間の齟齬を解消し、整理した形で可視化することである(図2)。このようなシステム開発では、データベースアクセスコンポーネントと、各種グラフコンポーネントが利用される。データベースアクセコンポーネントは、MySQLやPostgreSQL、SQL Server、Oracleといった関係データベースとの連携機能を提供するものである。これを用いてデータを一元的にデータベースに収集・蓄積し、集計・分析を行ったのち、グラフコンポーネントで可視化する。

図2 データの一元管理と現場情報の可視化

MZ Platformは、PC上で利用するデスクトップアプリケーションの開発の他、Webアプリケーションの開発・運用機能も提供している。MZ PlatformによるWebアプリケーションの構成を図3に示す。図中、赤で囲んだ部分がMZ Platformの機能として提供する範囲であり、Webサーバ自体はユーザーで用意しておく必要がある。

図3 MZ Platform Webアプリケーション構成図

ユーザーは、MZ Platform Webモードでシステム開発を行い、MZ Platform Webアプリケーションとして保存する。これをWebアプリケーションとして運用するために、WebサーバにはMZ用サーブレットとMZ APIを配備しておく。MZ用サーブレットは、保存されたMZ Platform Webアプリケーションデータに基づいてブラウザ画面を作成するほか、クライアント側のブラウザ上で行われた画面操作に基づき、MZ API経由でMZ Platform Webアプリケーションを起動し、その実行結果を受け取ってブラウザ画面の更新を行う。

MZ Platformが提供するWebアプリケーション開発機能は、「デスクトップアプリケーションをそのままWebで使えるようにする」ことを基本コンセプトとしており、Webアプリケーションであるがための制約は受けるものの、デスクトップ用として開発したアプリケーションを転用してWebアプリケーションとすることが可能である。この機能は、例えば、社内での運用を想定して開発した受注登録システムを、営業先からでも利用できるように機能拡張するような場合に有効である。

産総研では、MZ Platformを会員登録制によりWebサイト4)から無償配布している。また、当Webサイトには、これまでに実現された製造業でのシステム開発事例の紹介や、ユーザー相互の情報交換のための掲示版、MZ Platform利用のための技術研修や技術コンサルティングの案内なども掲載されている。

図4 MZプラットフォームユーザー会ホームページ

3.IoT拡張キット”スマート製造ツールキット”

IoT導入によるスマート製造実現のためには、工作機械等の設備機器はもとより、センサーなどの計測モジュール、さらにはインターネットを介した外部システムとのデータ送受信機能が必要と考えられる。産総研では、MZ Platformの機能を拡張し、これらの連携機能を追加したパッケージを「スマート製造ツールキット」として配布することを計画し、開発を進めている3)

スマート製造ツールキットの概略を図5に示す。図の中央部分が従来のMZ PlatformによるIT化の範囲であり、図2にも示した業務データの収集と可視化の様子を表している。

図5 スマート製造ツールキット概略3)

その周辺がIoT機器連携のための機能拡張部分である。工作機械等の設備機器に取り付けられた計測モジュールからのデータを取得してデータベースへの登録を行い、また、外部機器へのデータ送信を行う。MZ Platform自体は、すでに標準のシリアル通信コンポーネントによる汎用的な通信機能を備えており、IoT機器連携拡張機能は、主に、それを既存の各種規格に合わせて利用するためのインタフェースとして位置付けられる。

IoTの実際の運用に際しては、計測モジュールから収集される膨大なデータのフィルタリングや同期処理など、いわゆるエッジ処理が必要となる。この他、収集されたデータに応じた自動処理を実現するための、工場プロセスのモデル定義機能も求められる。スマート製造ツールキットの開発は、IoT機器連携のためのインタフェースのみならず、これらの高度な機能も視野に入れて進めている。

INTRO

ドイツが第4次産業革命、いわゆるインダストリー4.0を提唱して以来、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)が世の中の注目を集めています。IoTの進展により、業務管理、事業展開、市場戦略など、ものづくりに大きな変化が生じると考えられています。各地で開催されている展示会でも、IoT対応を明示した様々な種類のセンサやセンサシステム、ソフトウェアが争うように出てきました。このような中で次世代に生き残っていくための鍵となるのは、計測技術や通信技術、あるいはビッグデータ処理や人工知能といった個々の技術を単に導入するということよりも、むしろそれらを総合的に使いこなし、自らの省力化や効率化、顧客サービスなどとどのように結び付けるかという新しい構想・イノベーションの創出だと考えられます。

産総研では、ITやIoTといった技術をあるものをそのまま受動的に使うのではなく、能動的に自らカスタマイズして、使いやすいように使い込んでいくことが、ITやIoTの活用によって企業の体質強化や競争力強化、新たなイノベーション創出につながると考えており、自らIT化を進めることを可能とするソフトウェア作成ツール“MZ Platform”とそのIoT拡張キット“スマート製造ツールキット”の開発と普及を進めています。普及活動に当たっては、産総研のみならず、各地域の公設試験研究機関等とも協力関係を築き、全国的な展開を図っているところです。

MZ Platformは、個人でも、ユーザー会ホームページ(http://www.monozukuri.org/mzplatform/)より会員登録することで、無償での利用が可能となっております。また、ホームページには企業での活用事例紹介なども掲載しておりますので、是非ご覧いただければ幸いです。

■ナビゲーター
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
エレクトロニクス・製造領域
製造技術研究部門長
市川 直樹

4.おわりに

産総研では、2001年からIT化による中小製造業の体質及び競争力の強化を目的として、中小企業のIT導入支援の活動を進めてきた。その中で取り入れたのが、「現場の作業者自らが必要なシステムを作る」エンドユーザー開発という概念であり、MZ Platformはそれに基づいて開発されたものである。

当初、主にITシステム導入コストの低減という観点から取り入れたエンドユーザー開発であったが、IT導入支援の活動を進めるに従い、これがIT化を効果的に進める上できわめて有効であることがわかって来た。

通常、現場の作業者が、業務の中でやり取りされる情報やデータの流れを意識する機会はあまりない。だが、自らがシステム開発に携わることによりそれらの流れを必然的に意識することになる。それによって、業務全体を情報の流れという視点から俯瞰的に捉え、同時にITでできることとできないことを見極め、IT化のポイントや、効果的なシステム構築及び運用方法を見出すことができるようになる。そしてこのことは、より大規模なシステム開発において、ソフトウェアベンダーとの意識共有を図り、協働を進める上でも有効に働くのである。

昨今、「身の丈IoT」という言葉をしばしば耳にする。これは、低価格で手軽に利用できる機器やセンサーを使って、IoTの仕組みを自作しようというものである。これもコストという文脈で捉えられることが少なくないようだが、むしろ、自ら手を動かしてIoTシステムの構築に取り組むことによって、利用技術や現状の課題を深く理解し、さらに幅広い展開を図るためのアプローチとして捉えるべきであると考える。

本稿で紹介した取り組みは現在進行中であり、今後、中小企業を含め、わが国の産業の発展に貢献していければ幸いである。

謝辞

MZ Platformの開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ものづくり・IT融合化推進技術の研究開発」および「中小企業基盤技術継承支援事業」により行われたものです。

参考文献

1.Lieberman他:End-User Development,Springer(2006) 2.澤田他:高度な専門知識不要のITシステム開発ツール:MZ Platform-製造業におけるエンドユーザ開発の実現-,Synthesiology,Vol.8,No.3,p.158-168(2015) 3.古川他:スマート製造の実現に向けた産総研の取り組み,自動車技術,Vo.71,No.6,p.22-27(2017) 4.MZプラットフォームユーザー会:(http://www.monozukuri.org/mzplatform/

ご照会先

h.sawada@aist.go.jp

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